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「ドナルド・キーン著作集」を読む

ドナルド・キーン著作集〈第1巻〉日本の文学ドナルド・キーン著作集〈第1巻〉日本の文学

(2011/12)

ドナルド キーン

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いま、古事記から現代まで日本文学の通史を学びたいと思えば、ドナルド・キーン先生の「日本文学の歴史全18巻」を読むのが最適でしょう。

もともと英米向けの英文テキストだったのですが、評判を得て日本語に翻訳されたものです。というより、通史としてこれほど精緻に通じている日本の国文学者がいないということです(日本の学者先生にもがんばっていただきたい)。

外国人(先生は現在は日本に帰化され日本人です)に日本文学を習うという妙な経験となりますが、思えば西洋化した今日の日本人にこそわかり易い入門書となります。

さらに言えば付記された英文のほうが読みやすいとさえいえるのです。

平成11年に編まれた本書「ドナルド・キーン著作集十五巻」のうち第1巻は愉しい話ばかりで読んで飽きることがありません。

とくに「私の日本文学」の講演集のくだりは放送や録音テープで何度も聴いていますので、先生独特のやわらかな日本語がよみがえってじつに心地よいのです。

「日本文学散歩」では週刊朝日には場違いな文学者たちを登場させひとりほくそ笑んだそうですだが、編集者も喜んだにちがいないでしょう。宗長、橘曙覧の話などいま読んでもおもしろいのです。

日本人ドナルド・キーン先生のファンは全国津々浦々おいでしょう。先生のご健康とご長寿を祈念しましょう。

    * * * *

さて、キーン先生の日本文学ことはじめは1940年偶然に古本屋で見つけたアーサー・ウエーリー訳の源氏物語であったことはよく知られていますが、

アーサー・ウエーリーが翻訳に際して注釈に使ったのが本居宣長の「玉の小櫛」であったとのお話。

本居宣長が弟子たちに源氏物語注釈の講義を30年間一週も休むことなく続けたことは有名な話ですが、結果、一番の孝行弟子が源氏物語を世界中に広めてくれた<アーサー・ウエーリーであったことになります。

もののあわれ」が源氏物語の精髄、と説く宣長の解釈がアーサー・ウエーリー訳本に表現されていたのなら、

キーン先生は偶然とはいえいきなり日本文学の本質をつかまえられたということです。

歴史の偶然とはこういうものなのでしょう。