「ピエール・リヴィエールの犯罪」ミシェル・フーコー
「1835年6月3日、フランス、オーネー町の農家で40歳くらいの女性とその娘さらに息子の幼児がナタで惨殺されるという猟奇的殺人事件が発生した。
目撃者の証言により犯人は女性の長男ピエール・リヴィエール20歳と判明したが逃亡、1ヵ月後に逮捕された。
逮捕後犯行の動機を『神に命じられた』と証言した。」
まるでミステリー小説のようなこのテキストは当時の公式の裁判記録と新聞報道だけで構成されたフーコーのゼミナール用資料です。
この事件の不思議な経過は、犯人リヴィエールが逮捕後わずか10日間で書き上げた犯行の動機、犯行、逃走の「手記」に始まります。
当初、白痴か狂人と思われていたリヴィエールの恐るべき記憶力と理路整然とした文章力に検事、弁護士、精神科医が驚嘆したのです。
リヴィエールは正常人なのか狂人なのか、正常人なら三重の尊属殺人は死刑、責任能力のない狂人なら終身隔離ということになります。
その顛末はこれからの読者のたのしみ、ですが、
ミシェル・フーコーの問いかけはこうです。
「要するにリヴィエールの行動、手記に対して、三つの真実性の問題が提起されたのである。
すなわち、
事実の真実性
世論の真実性
科学の真実性である。」