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「日本の弓術」オイゲン・ヘリゲル


日本の弓術 (岩波文庫)日本の弓術 (岩波文庫)
(1982/10/16)
オイゲン ヘリゲル

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奇跡的な名著です。

一方、歴史的にはじつに不幸な運命の書でもあります。

「弓術と言えば弓を一種のスポーツの意味にとり、したがって術をスポーツの能力の意味にとるのが、まず手ぢかなところではないだろうか。」

と、はじまる本書は、1926年(大正15年)たまたま来日していたドイツ人哲学者オイゲン・ヘリゲル氏が弓道阿波研造氏に五年間「弓道」学んだを体験を母国ドイツで行った講演録の翻訳です。

ですから平易な文章でわずか一時間たらずで読み終えてしまいますが、

そこは当時一斉風靡した新カント派の哲学者、「弓道」修行から「禅」に至るまでの道程を西洋人に語っています。

鈴木大拙の「禅」岡倉天心の「茶の本」にもひけをとらない名著といえます。

歴史的な不幸の始まりはこの講演が1936年に行われていることにあります。

1936年といえばベルリンオリンピックの年、ニュールンベルクで悪名高いナチス党大会のあった年です。

また本書の日本語版初版は1941年ですので太平洋戦争開戦の年です。

1945年日本ドイツの敗戦は哲学者オイゲン・ヘリゲル氏の運命も狂わしました。

自宅は接収され多くの財産も略奪され、阿波研造氏から贈られた師愛用の弓も没収されました。

もはや新カント派は完全に抹殺され、哲学者へリゲルは原稿のすべてを焼却しました。

ただ1954年に「弓と禅」刊行し、

1955年「花びらが木から散るように」71歳で逝去しました。


弓と禅弓と禅
(1981/11)
オイゲン・ヘリゲル

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