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平岩弓枝「御宿かわせみ」続 「長編小説作家」という時間の気配り


怪談牡丹灯篭 怪談乳房榎 (ちくま文庫)怪談牡丹灯篭 怪談乳房榎 (ちくま文庫)
(1998/08)
三遊亭 円朝

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三遊亭円朝の「牡丹灯篭」

わが国の近代小説の幕開けは明治、文明開化の掛け声とともに始まる、まさに奇跡の時代であった。

波紋を広げた投げた石の一つは二葉亭四迷から始まる翻訳文学。

もうひとつの石は落語である。

三遊亭円朝の「牡丹灯篭」の聞き書きは速記術の発明という不思議が重なっている。

結果、長尺な時代小説の登場となった。

そして四迷も漱石森鴎外円朝の方法論を借りて散文口語体を始めたのだから歴史というのはわからない。

先日、立川志の輔が二時間かけてそのさわりを演じたがその心意気に感心した。

つまり近代小説の産声は時代小説にあった、ということである。

というマクラをおいて、長編時代小説について書こうと思っている。

平岩弓枝御宿かわせみ

御宿かわせみ〈新装版〉 (一) (文春文庫)御宿かわせみ〈新装版〉 (一) (文春文庫)
(2004/03/12)
平岩 弓枝

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長ければいいというもんでもないけど、もっとも長い時代小説は平岩弓枝さんの「御宿かわせみ」シリーズ。

1974年から今日まで40年間ほぼ年1冊のペースで36冊。書く姿勢がくずれない。

描く時代も江戸から明治にと、おそらくそんなはずじゃあなかったはずだ。

女性作家が腰を据えてものを書き始めるとおそろしくしぶとい。

男と違って紫煙をもうもうと噴き上げて勢いで書いていくわけではないし、それに女性作家は長生きである。

ご本人が言葉に出すか出さないか、おそらく死ぬまで書いて、最長不倒記録を狙っていることは間違いない。

雑誌の毎号一話完結話しが結果、文庫本にしても電車のなかの30分、お昼休みの40分で読みきれ、爽やかな読後感が人気の秘密となっている。

我が家の本棚には「浮かれ黄蝶 」までずらり34冊並んでいるが、読んでいるのは半分。

カゼ気味であるとか、小遣いがちょっとさみしいとか、なんとなく気鬱なときに読みたくなる小説、なんとなくうどんを食べたくなる気分に似ている。

澤田ふじ子公事宿事件書留帳

闇の掟―公事宿事件書留帳〈1〉 (幻冬舎文庫)闇の掟―公事宿事件書留帳〈1〉 (幻冬舎文庫)
(2000/12/05)
澤田 ふじ子

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京都を舞台にした江戸時代版「ロウアンドオウダー」といったシリーズ。

公事宿とはいまでいう弁護士事務所のようなところ、

刑事訴訟(吟味物)

民事訴訟(出入物)

指紙(出頭命令)

対決(口頭弁論)

審理(糺)

判決(裁許)

と呼ぶそうな。

この作家のいいところは「押さえ」であろう。

花の都での出来事である、名所旧跡神社仏閣にことかかぬ土地柄であろうに物語りに必要な場しか書いてない。

よほど文章を刈り込むか、無用な想像力を抑えるか、練達の筆捌きが見ものとなっている。

読み手が追いつかぬもう20巻になっている。

10巻目「無頼の絵師」あたりでウロウロするようでは評論にもなるまい。