梅雨時、なにげなく読むものとして森有正「バビロンの流れのほとりで」がある。
昭和32年の刊行のこの文のたち方が今日であっても不思議はないほどいつも新鮮なのに驚くが、描かれているのはたしかに今日のパリなのである、曇り空の。
森有正さんは昭和51年65歳で亡くなっているから「いまどきの」とは不遜だが、百年二百年単位でながめればいまどきといえよう。
一年積もりで渡仏し永住してしまった孤高の哲学者はいまどきの「西行」と呼ぶにふさわしい。
妻子を振り捨てるほどではないにしても、語られない家族との確執は森さんの人生を複雑なものにしたにちがいない。