minerva2050 review

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マリア・ユーディナ 奇跡のピアニスト(その2)

すこし昔、友人Hが新しいステレオを買ったので聴きにこないか、と誘った。

彼の部屋に入ると机の上に大きめのラジカセが置いてある。

「これを買ったんだ」とうれしそうに言う。

友人Hはクラッシックファン、とくにジョージ・セル指揮のクリーブランドオーケストラの演奏が好きで、セルの指揮法に一家言もっている。

毎月給料のうちから1万円、4,5枚のCDをタワーレコードで購入することを楽しみにしている。

それを知っているから率直に聞いた。

「CDを買うのを少し我慢してコンポにすればよかったのに?」

その答えが奮っていた。

「そんなお金があったらもっとCDを買うよ。

僕はべつに音に関心があるんじゃあない、音楽が聴きたいんだ。」

なるほど。


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バッハ、 他

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そのとき、そのラジカセで聞かせてくれたのが「マリア・ユーディナ」

聴き終わったとき、二人とも指を組み、ラジカセに低頭していた。

それはまるで巫女さんに宣示を告げられたような厳粛な気分であった。

実際マリア・ユーディナのピアノ音の凛冽は異様なのである。

マリア・ユーディナ( 1899年 - 1970年)

敬虔なクリスチャン。

モスクワ郊外の小さな家で徹底した禁欲生活の生涯であった。

生涯独身、ほとんど尼さんのような暮らしぶり。

収入のほとんどは貧しい人や迫害された人への援助へ費やされた。

罪と罰」のソーニャのような人が実在したんだ。

彼女の作品解釈は哲学的であり宗教的である、

エキセントリックな音色はそのためであろう。

あのとき「巫女さんの宣示」と感じたのもそういうことだ。