アナトリー・ヴェデルニコフ 奇跡のピアニスト(その3)
ロシア・ピアニズム名盤選28 ヴェデルニコフ/20世紀ロシアの作品 (2005/05/25) ベデルニコフ(アナトリー) 商品詳細を見る |
日本人がよく知るロシアのピアニストといえばリヒテルとギレリスであろう。
そのリヒテルが西側記者団に「国には自分よりすごいピアニストがいる」といって紹介したのが、ヴェデルニコフであった。
同じネイガウス門下の先輩になる。リヒテルはヴェデルニコフの実力を知っていた。
もちろん記者たちはだれも知らなかったし、ヴェデルニコフ自身は地方の小学校や中学校をめぐり歩いて、演奏会を行い糊口をしのいでいた。
のちにヴェデルニコフの音といわれるペダルアクションは調律の行き届かない場末のピアノで最良の音を出すための切実な工夫から生まれたといわれる。
時代はいわゆるスターリンの粛清の時代で、父親は銃殺刑、母親は強制収容所送りとなり、本人も逮捕直前に師ネイガウスが助けた。
かつてのロシアでは反体制派のレッテルを貼られると、
天才といえども過酷な運命を強いられる、その意味で象徴的な人であった。
1980年ゴルバチョフのペレストロイカまでじつに40年以上差別された。
悲劇のピアニストである。
しかし60歳をこえてモスクワ音楽院の教授に迎えられ、西側での演奏会の成功などしあわせな最後であった。
それにしても光のささない世界でよく練習に耐えたものだと驚く。
だれもが「奇跡のピアニスト」と呼ぶ。