数学的にありえない(小説)アダム・ファウアー
数学的にありえない〈上〉 (文春文庫) (2009/08/04) アダム ファウアー 商品詳細を見る |
本の虫故児玉清さん絶賛「かつてない超のつく面白さに僕は悶絶した」といわれても、ねー。
かの筒井康隆さんの名作「時をかける少女」のいわばアメリカ版。
主人公はいたいけな少女ではなく、どうしようもないよれよれ天才数学者のおっさん。
ポーカー賭博で負け、わずか借金1万1千ドルでロシアンマフィアに命を狙われている、というショボイ話。
ただ「時をかける少女」ではあっという間の未来予知ですが、このおっさんは数学者、未来予知に少々屁理屈をたれる。
「未来は予知できるのか」
できないはずの未来予知、ところが身の回りには未来予知の話は多い、天気予報しかり、保険会社の料率、最近では地震予知、火山爆発予知(当たらなかったけど)などなど。
実は、このおっさんがポーカーに熱をあげるのは確率論を信じているからだ。
いるいるギャンブルに確率論を応用してなんとか勝とうとするやからが、ただみんな負けが込んでいるけど。
(例外的にドイツの研究者が日本の競馬、三連単を確率的に散らしまくって勝っているらしい)
もし、もし未来が予知できるとするならなら、予知できる未来はいま既に決定していることになる。
「ラプラスの魔」
ここで古色蒼然とした「ラプラスの魔」の話がが出てくる。
要するに、
「この宇宙が決定論的なものだと信じていたラプラスは、物理の法則をすべて理解し、
宇宙に存在する物質粒子のある瞬間における位置をすべて知っている人間がいれば、
・・・未来の歴史を完璧に予想できるだろうと考えた。」
ナポレオンに寵愛されたラプラスですが、ナポレオンの敗北すら予言できなかった男ですよ。
はたして、よれよれ天才数学者のおっさんは未来予知ができるのか?
物語はジェットコースターSFアドベンチャー、
美貌のCIAスパイエージェント「ナヴァ」がおっさんを助けるなど手の汗握る展開が楽しめる。
この天才数学者のおっさんと「ナヴァ」の活躍は続編も書けると思うが、どうも違うらしい。
さらにあとがきで、著者が少年時代10年間盲目であったという事実を聞くと、小説家の資質とはなにかと不思議に思う。