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京鹿子娘道成寺 2 (日本舞踊のゆくえ 6)

            娘道成寺

WOWOW 3/16(土)午後4:00 で放映

京鹿子娘道成寺の見どころ

もちろん玉三郎さんの流れるような舞踊の数々をうっとり観ればいいのですが、

もう一つの視点、この舞台の進行、物語の展開のなかで、どこで生娘が娼婦になり、娼婦が狂女になるのかは、役者は承知して演じているわけですから、観る側も意識して楽しめは楽しさが倍になります。

いうまでもなく鐘は逃げる男の象徴です。

ですから花子が鐘を見る所作の瞬間は恋狂いの女の顔になっています。

娼婦(白拍子)、生娘、狂女(蛇体)、鐘(男)を覚えて、舞台を覗きましょう。

道行

出は花道から、京の町娘の風情、まさに絶世の女形

懐紙をくわえるあたりから白拍子に、そして一瞬ですが狂女に。

ただ玉三郎は美しすぎてわからない、ほかの役者ではぎょっとする場面なんですが。

これから起こる事件の不安を予感させます。

問答

花子「この手のうちの雀が生きているか死んでいるか、当ててみやしゃんせ」

坊主「生きているというたら絞め殺そうでな、死んでいるというたら放そうでな」

花子「これみやしゃんせ」

坊主「あれ、何にもない」

花子「あるとおもえばある」

「ないとおもえばない」「色即是空」「空即是色」

「坊さんどうぞ、拝ませてくださいなあ」

なんでもない会話のようで、この物語の核心をついた会話ともいえます。

能舞

白拍子花子が一度花道へ出て、橋掛かりに模して、舞台に入り舞います。

能の舞は「幽玄」というのが約束ごと、

何度も鐘を見て、男を想い続けます。

「乱拍子」という能の世界でも絶えたむつかしい足さばきに玉三郎は挑戦しています。

花の外には松ばかり 花の外には松ばかり

暮れ染めて鐘や響くらん

鐘に恨みは数々ござる初夜の鐘を撞時は

諸行無常と響くなり

後夜の鐘を撞く時は是生滅法と響くなり

晨朝の響きは生滅滅巳

入相は寂滅為楽と響くなり聞いて驚く人もなし

我も五障の雲晴れて 真如の月を眺め明かさん

手踊り

言わず語らぬ我が心

乱れし髪の乱るるも

つれないは只移り気な

どうでも男は悪性者[あくしょうもの]

都育ちは蓮葉[はすは]なものじやえ

手鞠唄

生娘のかわいい手鞠舞踊。

しかし、かぶさる唄はくるわづくし、

歌舞伎ならではの恐ろしさ。

恋の分里 武士も道具を伏編笠[ふせあみがさ]で

張りと意気地の吉原

花の都は歌でやわらぐ敷島原[しきしまばら]に

勤めする身は誰と伏見の墨染

煩悩菩堤の撞木町[しゅもくまち]より

難波四筋[なにわよすじ]に通い木辻[きつじ]に

禿立ち[かむろだち]から室の早咲きそれがほんに色ぢゃ

一イ二ウ三イ四ウ 夜露雪の日

下の関路も共に此の身を馴染重ねて 仲は丸山

ただ丸かれと 思い染めたが縁じやえ

花笠踊り

梅とさんさん桜は

何[いず]れ兄やら弟やら

わきて言われぬな

花の色え

菖蒲杜若は

何[いず]れ姉やら妹やら

わきて言われぬな

花の色え

西も東もみんなに見にきた花の顔

さよえ

見れば恋ぞ増すえ

さよえ

可愛らしさの花娘

くどき

日本舞踊のもっとも美しい場面、クライマックスといってもいいでしょう。

遊女花子の夢、憧れ、それは「人妻」です。その夢を描いた舞です。

ですから、生娘から、人妻に、そして遊女へ帰る、とわたしはみます。

恋の手習つい見習いて

誰れに見しょとて

紅鉄漿つけよぞみんな主への心中立て

おお嬉し

おお嬉し

末はこうじやにな

さうなる迄は

とんと言わずに済まそぞえと

誓紙さえ偽りか

嘘か誠か

どうもならぬほど逢いに来た

ふっつり悋気[りんき]せまいぞと

たしなんで見ても情なや

女子には何がなる

殿御殿御の気が知れぬ

気が知れぬ

悪性な悪性な気が知れぬ

恨み恨みてかこち泣き

一瞬鐘をみる狂女の目

露を含みし桜花

さわらば落ちん風情なり

鞨鼓(かっこ)

鞨鼓(かっこ)の踊りは遊女です。

鞨鼓はもともと河原者の遊芸です。

ですから、陽気ですがジプシーのような哀しみのある踊りです。

面白の四季の眺めや

三国一の富士の山雪かと見れば

花の吹雪か吉野山

散り来る散り来る嵐山

朝日山々を見渡せば

歌の中山石山の

末の松山いつか大江山

生野の道遠けれど

恋路に通う浅間山

一と夜の情け有馬山

いなせの言の葉

あすか木曽山待乳山

我が三上山祈り北山稲荷山

一瞬狂女になる

縁を結びし妹背山二人が中の黄金山

花咲くえいこの この姥捨山

峯の松風音羽山

入相の鐘を筑波山

東叡山の

月のかんばせ三笠山

手踊り

ただ頼め

氏神様が可愛がらしやんす

出雲の神様と約束あれば

つい新枕[にいまくら]

廓[さと]に恋すれば浮世じやえ

深い仲じやと

言い立てて

こちゃこちゃこちゃよい首尾で

憎てらしい程いとしらし

鈴太鼓

舞台劇でいう大詰めです。

鈴、太鼓の激しい踊りで、遊女花子が高揚していきます。

超絶技巧のような踊りのなか、決心するのです。

花に心を深見草

園に色よく

咲初めて紅をさすが品よくなりよく

ああ姿優しやしおらしや

さっさそうじゃいな

そうじゃいな

・・・・

・・・・

少しづつ狂女になっていく

花の姿の乱れ髪

思えば思えば恨めしやとて

竜頭に手を掛け飛ぶよと見えしが

引きかついでぞ失せにける

鐘入り

遊女花子が逃げる男を殺し、

髪を振り乱して立ち尽くす。

蛇体

そして遊女狂女となって、恍惚の表情になる。

幻想舞踊劇と思いきや、圧倒的なリアリズム舞台として幕を閉じる。

(日本舞踊のゆくえ)完