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中沢新一「雪片曲線論」を読む


雪片曲線論 (中公文庫)雪片曲線論 (中公文庫)
(1988/07)
中沢 新一

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空海にはたくさんの顔がある。

密教の思想家としての空海がいたかと思うと、

能書家にして名文家のアーティストとしての空海がいる。

昔ながらの山岳宗教者として深山に踏み込んでいく空海の中には、

権力の操作にたけた政治家としての空海も同居している。

けれど、そんなふうに実に多様な空海像のなかでも、とりわけ私の興味をそそるのは、

流体土木の技術者としての空海なのである。」

                   「雪片曲線論」中沢新一 著

中沢新一さんの初期の傑作は「流体土木の技術者としての空海」という切り口で始まります。

伝説としての満濃池工事から話を始まるのはともかく、空海がどれほどの土木技術を獲得していたかははっきりしていませんが、あるいは中国の僧堂に墨家の伝統があったのかもしれません。、

ともあれ、当時宗教学者としての中沢新一さんの直覚「空海からチベット仏教へ」は驚くべき出来事でした。

なによりも、その困難はあまり語られていませんが、チベットでのフィールドワークは想像を絶するものであったはずです。

曼荼羅図からフラクタル曲線をイメージできたのは1300年の時を経ても中沢さんだけでしょう。

当時一世を風靡したイリヤ・プリゴジン散逸構造論、レヴィ・ストロース構造主義を取り込んでのチベット仏教論は、

今日読んでも迫力のある一篇です。

むしろその後の著作対称性人類学」「芸術人類学」が30年前の小品「雪片曲線論」を越えられないもどかしさが気になります。

(続く)