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映画感想「裏切りのサーカス」

裏切りのサーカス

ル・カレのスパイ小説、『ナイト・マネジャー』がBBCでドラマ化されるらしい。

その前に、ル・カレの傑作映画を観るのも悪くない。

ひさしぶり、大人のための傑作ミステリー映画である。

原作はジョン・ルカレの「Tinker Tailor Soldier Spy」

読んだのはもう30年以上も昔のことである。

本作はわが国に紹介されたルカレの第二作目であったように記憶している。

東西冷戦のなか、スパイの非情さをリアルに描いた「寒い国から帰ってきたスパイ」でわが国でもベストセラーとなった。

またこの二作が大傑作でこのあとは少しレベルが下がったように思う、というより東西冷戦が氷解し、過酷なスパイ合戦にリアリティがなくなったという歴史がある。

まさに言葉どおりの「寒い国から帰ってきたスパイ」である。

よくもまあ40年もの間、脚本を暖めていたものである。

ジョン・ルカレが感激して出演までするのも無理はない。

映画は総合芸術というが、これほど製作にかかわった人たちの熱意を感じさせた作品は近年まれである。

製作中に亡くなったブリジット・オコナーへの追悼のクレジットが入っていて、オマージュの意味もあるのだろう。とにかく脚本がいい。

商業主義のハリウッドではこうは行くまい。

ただ原作を知らない若い人たちには、映画館で観るとよくわからないままあっという間に終わってしまう。

二度三度と見直したというレヴューを見るとそれはそうだろう、と思う。

名だたる俳優がもてる演技力のかぎりをつくして演じている。

ゲイリー・オールドマンのスマイリーははまり役、役者冥利につきるだろう。

ただメガネを変えるだけで時の流れを表現する。

無骨なスマイリーが感情的になるシーンは一ヶ所だけ

「単なる使い走りじゃあないか!」

裏切りのサーカス

原作ではプリドーが主人公か狂言回しになっていたように記憶していたが、映画では学校での生徒との関係が唐突で弱い。ただラスト銃撃のあとのあの涙はたまらない。

新訳はあまりにも評判が悪いので、古い原作を書庫で探すのだがどうしても見つからない、35年前となると。

監督のトーマス・アルフレッドソンスウェーデン出身らしい名監督。

おそらく英国やアメリカでは引く手あまたであろうし、世界中の役者も出演を希望するだろう。

できれば007の新作に挑戦してほしい。