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ヴィスコンティの美学(2)ヴェニスに死す

                     

ブロマイド写真★映画『ベニスに死す』タジオ(ビョルン・アンドレセン)/カラー/頬づえブロマイド写真★映画『ベニスに死す』タジオ(ビョルン・アンドレセン)/カラー/頬づえ
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百年(ももとせ)に一年(ひととせ)足らぬつくも髪

  われを恋ふらし面影に見ゆ   (伊勢物語 六十三段) 

ヴィスコンティの「イノセント」に次ぐ傑作。

前作の「地獄に堕ちた勇者ども」と次作「ルードリィヒ」の三作品でドイツ三部作といわれているが、ヴィスコンティ自身はトーマス・マンの「魔の山」を映像化してドイツ四部作にしたかった、と聞く。

ヴィスコンティは主人公を作家からマーラーとおぼしき作曲家に脚色し、原作と印象は違うが「時間の文学」というマンの思想を的確に映像化している。

それを一言でいえばエントロピーの法則といえる。散逸構造体でないかぎりすべては死に向かう、崩壊するということ、文学的にいえばデガダンスの極致である。

気がつかぬことだが、冒頭の老朽船にある「エスメラルダ」の名が暗示するもの、映画の全編をつらぬくテーマになっている。