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中村勘三郎 日本舞踊のゆくえ(その4)

i勘三郎初舞台勘三郎4歳初舞台

歌舞伎の家

本名波野 哲明、東京都生まれ、歌舞伎役者、十七世中村勘三郎の長男。

歌舞伎役者と俳優、例えば名優と呼ばれる高倉健渥美清との違いは何でしょうか。

歌舞伎役者は幼児のころからその全人生をさらけ出し人気に答えねばならない義務があります。

一方映画俳優や新劇俳優ではその逆で素性や生活は問わないのが普通です。

俳優高倉健高倉健であり渥美清渥美清です。その本名、家族、生活者としての日常生活を問われることはありません。むしろ知られないほうが俳優の魅力となります。渥美清の生活臭隠しの徹底振りは伝説にさえなっています。

勘三郎さんは4歳で五代目中村勘九郎を襲名して初舞台を踏んでいます。

多くの場合歌舞伎役者の家は日本舞踊の家元でもあります。

十八世中村勘三郎は舞踊名「藤間勘暢」という舞踊家でもあります。

舞踊は歌舞伎役者の基本的な運動スキルです。

勘三郎さんの髪結新三も法界坊も、舞踊できたえた身体ゆえの役どころということです。

伝統芸能の家元制度

伝統芸能の家元制度の最良点は「身体伝承」にあります。書き物としては一切残さない、一子相伝身体で伝承するということです。

伝統芸能の伝承者は、能であれ、日舞であれ、歌舞伎であれ、幼児のころ3歳から4歳から徹底的に仕込まれます。秘儀の伝承はすでに子供の時期に済ませているのです。

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余談になりますが、最近の体育理論(スキャモンの成長曲線)では運動技術、力強さ、耐久力、巧みさは、それぞれ力強さは15歳から18歳で、耐久力は12歳から14歳で身につきピークに達するのに比べて、巧みさはじつに3歳から身につきはじめ10歳でピークをむかえます。(青の神経型線)

おそらく脳や脊髄の構造的発達と関係しているのでしょうが、千年の昔から「伝統芸能の伝承者」はそのことを承知していたわけですから、おそるべき日本の智恵といわねばなりません。

その方法論の源流は古武道、とくに弓道から始まったと思われます。そして能の仕舞いへ、歌舞伎舞踊へという系譜でしょう。

プロスポーツ選手同様、舞踊という運動スキルを脳、脊髄の発達にあわせて習得しているからこそ「家元」となるのです。

日本舞踊「上方舞」の家元制度は、江戸後期から始まる新しい家元です。

例えば「井上流」では、初世井上八千代は幼少より舞を習い、二世は初世の姪で終世独身、三世は幼児から内弟子、四世片山愛子も幼児から内弟子、五世家元後継者井上三千子は四世の孫にあたります。やはり幼児期からの鍛錬による秘儀の伝承により「家元」の資格を得ているのです。