2015-01-01から1年間の記事一覧
春の日、早朝5時に目覚めた。 まわりの人に迷惑にならないようヘッドフォンで、アファナシェフのシューベルト「ピアノソナタ第21番」を聴く。 ゆっくり、しらじらと夜が明けていく時間の流れと、アファナシェフのゆるゆるのテンポがうまくシンクロするの…
ジャクリーヌ・デュ・プレの想い出 [DVD](2005/09/14)デュ・プレ(ジャクリーヌ)商品詳細を見る ひさしぶりにジャクリーデュ・プレのシューベルト「ます」のビデオを観ている。 1969年ロンドン公演の記録である。 当時、デュ・プレ24歳、新婚の夫ダニエ…
「シューマン『ピアノ協奏曲イ短調』Op54 バロック時代にチェンバロ協奏曲としてはじまり、モーツァルトの手で豊かに開拓された、ピアノ協奏曲というジャンルにおける最高傑作。 ・・・各楽章は明確な意匠の下で動機的に関連づけられ、主題は堅固な組み立…
「今日は家におると?」 この絶妙な長崎弁のセリフで物語は動き出します。 「早う死にたか」 毎日のようにぼやく祖父の願いをかなえてあげようと、 ともに暮らす孫の健斗は、ある計画を思いつく。 日々の筋トレ、転職活動。 肉体も生活も再構築中の青年の心…
家族八景 (新潮文庫)(1975/03/03)筒井 康隆商品詳細を見る 伝説の復活から2年!大人のエンターテインメント作品 米倉涼子版『家政婦は見た!』再び! SF小説の出来具合はフィクションとリアリティの混合比によって決まります。 だいたいフィクション4対リ…
001.100.111.000.・・・・Φ 量子コンピュータの誕生までにはあと10年はかかるといわれています。 そんな中、量子暗号の実用化は意外と早いと予想されていました。 米ID Quantique社の量子鍵配送による量子暗号化技術の商用化の成功は快挙…
前半のクライマックス、独竜岡の攻防。 宋江、,晁蓋も先陣を切る梁山泊あげての総攻撃に読者も手に汗握る。 さらに、 「一騎打ちを所望じゃ」 林沖は百騎を後方に退け、ひとりで突っ込んでくる扈三娘を待った。2本突き出した剣の先には闘気が溢れている。 …
なぜか故ロバート・B・パーカーの「スペンサーシリーズ」を彷彿とさせる。 スペンサーがボストン市内を徘徊するように鮫島は新宿の街を歩く。 いずれも地図を持ち歩けば正確に小説のその場所に行き着く。 スペンサーにはスーザンという恋人がいるが鮫島には…
意外な展開である。 楊志が早々に死ぬ。 まだ宋江も梁山泊に入っていない。 「死は誰にもやってくる。晁蓋は、そう思った。 早いか遅いかの違いだけで、人はみな土に還る。 だから、嘆くことはない。 死者のために、生き残った者ができることは、なにもない…
「昨日ジゼールは、黄昏時にモンセギュールの城跡を散歩していた。 観光客の足も途絶えた人気のない石の廃墟に一人いると、 まるで痺れるような畏怖の感覚の海に沈んでいきそうになる。」 南フランスアリエージュ県モンセギュール村、スペイン国境に近い盆地…
何度も宮島を訪れその時々には千畳閣にも上っているが、たしかにいわれるように未完の大経堂であり、不思議な建物である。 入母屋造りの大伽藍で857畳の畳を敷くことができ千畳敷と呼ばれるほどの経堂なのに、 なぜか壁面はなく、本来の入り口もなく、あるべ…
舞台はパリ。 一度でもその街角をそぞろ歩いた人には懐かしいあのパリが舞台のミステリー小説です。 森有正さんが、あるいは辻邦生さんが語るパリもありますが、 笠井潔さんは奥に隠れて見えにくいフランス上流社会のパリをあらわにします。 そこで、 あの鼻…
笠井潔さんの、10年という時間、2000ページ、まさに渾身の傑作本格ミステリー小説であるが、 残念ながら商業的には成功していない。(もちろん作家にはそんな目論見はない) なぜか。 まず第一に、 ドイツ哲学の巨人ハイデッガーが小説ではマルティン…
サイエンスフィクションでこの種の感動を覚えたのは、ずいぶん昔のことのように思い出されます。 およそ50年前、マイケル・クライトンの出世作「アンドロメダ病原体」を読んだあの時の興奮がよみがえりました。 有り得そうで有り得ない、有り得ないようで…
奇禍といっていいでしょう。 映画製作中に起きた映画の実在のモデル「クリス・カイル」殺人事件の衝撃が映画に重くのしかかっています。 遺族への配慮と了解を得るため脚本は大幅に変更されたでしょうし、クリント・イーストウッド監督でなければ完成公開は…
NHKラジオ放送にカルチャーラジオ「漢詩を読む」という番組があります。 この番組のファンで長い間聴いていますが、 とくに2008年4月から2011年3月までの宇野直人先生の「漢詩の来た道」は圧巻でした。 紀元前1050年西周王朝の「詩経」の第…
ジャレッド・レトのトランスジェンダー「レイヨン」役の演技が観たいと思った映画でしたが、 ほぼ完璧な名画に感動しました。 1.まずは実話に基づく脚本の出来がすばらしい。 物語の主題はエイズ治療薬薬害の告発のはずが、そんな思わせぶりな展開にしてい…
「西行の和歌における、宗祇の連歌における、雪舟の絵における、利休が茶における、その貫道する物は一(いつ)なり」 「笈の小文」 芭蕉 はて? 利休の茶とは 幸田露伴の随筆に「些細なことだが大事なこと」というのがあります。 茶道を一言でいえば「生活…
話は、人買いにさらわれる少女を自然居士が琵琶湖畔まで追っていき、人買いの云う舞を舞え、簓をすれ、鞨鼓を踊れと無理難題に応えて、無事少女を解放するという、宗教家の有り様を問う問題作です。 説法を旨とする宗教家に辱めのため遊芸をさせて笑おうとい…
ロラン・バルトが日本を『表徴の国』と評したのは1970年であったが、西洋人が邦楽を野蛮な「雑音」と捉えなくなったのはごく最近のことである。 雅楽を観る機会はよほどのことがないと体験できない。 安芸の宮島では雅楽舞台で年に2,3度あるが、神官によ…
「やまと歌は人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれるける。世の中にある人、ことわざ繁きものなれば、心に思ふことを、見るもの、聞くものにつけて、言い出だせるなり」 あまりにも有名な紀貫之の仮名序の書き出しです。 とにかく「古今和歌集」「源氏…
「松風」は観阿弥の作といわれています。 「松風、村雨昔汐汲みなり」との記録もあり、「汐汲み」をもとに観阿弥・世阿弥が改作を重ねたのだと思います。 卑しい汐汲み女の姉妹、美しく清らかでひたむきな在原行平との恋が、松風の吹く須磨の浦で語られます…
「日本舞踊のゆくえ 5」では、坂東玉三郎さんの「京鹿子娘道成寺」を通じて歌舞伎舞踊の楽しさを話します。長文になりますがご辛抱ください。 坂東玉三郎舞踊集1 京鹿子娘道成寺 [DVD](2003/01/25)Windows商品詳細を見る 坂東玉三郎 2013年正月おトソ気…
さて、中沢新一さんの直覚、わが国における仏教思想の頂点が後にも先にも空海の真言密教であることは疑う余地のないことでありますが、 先だって山岳宗教者としての空海の謎に「虚空蔵菩薩求聞持法」の実践という逸話があります。 辞書によれば、こくうぞう…
雪片曲線論 (中公文庫)(1988/07)中沢 新一商品詳細を見る 「空海にはたくさんの顔がある。 密教の思想家としての空海がいたかと思うと、 能書家にして名文家のアーティストとしての空海がいる。 昔ながらの山岳宗教者として深山に踏み込んでいく空海の中には…
銀閣寺東求堂「同仁斎の間 「だいたい今日の日本を知るために日本の歴史を研究するには、古代の歴史を研究する必要はほとんどありませぬ。 応仁の乱以後の歴史を知っておったらそれでたくさんです。 それ以前のことは外国の歴史とおなじくらいにしか感ぜられ…
国を癒やす「能」 迷路〈上〉 (ワイド版岩波文庫)(2006/11/16)野上 弥生子商品詳細を見る 「迷路」野上弥生子は戦争文学の傑作といわれますが、主人公ははたして菅野省三だったのでしょうか。 その長い物語の幕切れは 「とみはなにもいう暇がなかった。ふた…
古代アテネでは、ギリシャ悲劇の上演が医療施設で実施され治療に効果が上がっていたということは史実として記録にあります。 一方、能の発祥は足利義満の時代、娯楽として猿楽から様式化したことに始まります。 その時代や経緯は違うのですが、世阿弥の目指…
WOWOW 3/16(土)午後4:00 で放映 京鹿子娘道成寺の見どころ もちろん玉三郎さんの流れるような舞踊の数々をうっとり観ればいいのですが、 もう一つの視点、この舞台の進行、物語の展開のなかで、どこで生娘が娼婦になり、娼婦が狂女になるのかは、役者は承…
そっと日本地図を180度回転させてみると、対馬は中国、韓国からみれば日本の玄関口となる。 当たり前の話だが、それははるか遠い昔からそうだ。 例えば、紀元前219年、徐福が秦の始皇帝から依頼されて不老不死の薬を求めて舟を漕ぎ出したときもそうだった…