「バイバイ、エンジェル」(笠井潔)舞台はパリ、矢吹カケルくんが登場
舞台はパリ。
一度でもその街角をそぞろ歩いた人には懐かしいあのパリが舞台のミステリー小説です。
笠井潔さんは奥に隠れて見えにくいフランス上流社会のパリをあらわにします。
そこで、
あの鼻持ちならぬパリジャンたちを痛快にもなで斬りする日本の青年名探偵、
矢吹カケルくんが登場し、猟奇的殺人事件を現象学的直観でみごと解決するのです。
いわく、
「犯罪という事実は、実に複雑な事実が見分け難いほどに絡み合ったひとつの混沌です。
けれども、迷路のように錯綜した意味の連鎖が、どこかある一点に向かって不可避に収斂されているときには、そこに向かって現象学的直観をはたらかせてみるのが有効かもしれません。」
では現象学的直観とは?と問えば矢吹カケル君は、
「それは、どんな人間であってもほとんど無自覚のうちに日常的にはたらかせているような、対象を認識するための機構の秘密をあきらかにしただけのものです。」
といい、三才のの子供でも円の概念を知っていると巧みな例えで現象学を説明します。
事件はパリ十六区の高級アパルトマンで首なしの婦人の死体が発見されるという猟奇的殺人。
名探偵矢吹カケルくんの活躍やいかに、というところですが、
1984年3月の登場以来今日までまさかの三十年におよぶ活躍になろうとは、当時の作者も思い至らなかったでしょう。