幸田露伴 利休の茶(その1)
「西行の和歌における、宗祇の連歌における、雪舟の絵における、利休が茶における、その貫道する物は一(いつ)なり」 「笈の小文」 芭蕉
はて? 利休の茶とは
幸田露伴の随筆に「些細なことだが大事なこと」というのがあります。
茶道を一言でいえば「生活の所作」であり、露伴の「些細なことだが大事なこと」で語りつくしていましょう。(頁のおわりに全文載せていいますのであとで読んでください)
(我が家の茶室)
「秀吉と利休」
さて、ここで野上弥生子さんの代表作で傑作の「秀吉と利休」です。
天正13年9月3日の世間でいう禁中での黄金の茶会から天正19年2月28日の利休自刃まで、史実に即しての物語です。
利休ものではほかに井上靖さんの「本覚坊遺文」がありますが、読み比べれば野上さんのほうが優れていると思います。
利休の茶というより秀吉の狂気のような権力者像が圧倒的迫力で描かれています。とくに能「明智討」に興じる秀吉と取り巻きたちを映し出す場面、その文章力の巧みさはまさに小説家「漱石山房の鬼女」です。歴史家より小説家の虚構が真実を語る良い例でしょう。余談になりました。
一方では茶人利休の日々の立ち振る舞いがじつに丁寧に描かれています。秀吉への茶席の配慮と緊張まで目に浮かびます。
ただ「茶の道」を問われれば「山上宗二記」まで踏み込んだ「本覚坊遺文」でしょう。
「利休 遺偈」
もう二十年以上の昔、京都国立博物館で「利休の四百回忌展覧会」があり、観覧に出かけました。
大変な人出でゆっくり名物、名品を拝見できなかったのですが、ちょうど会場の中程のところに目的の「利休 遺偈」が展示してあり、さすがに十分ほど立ち尽くしました、その驚くべき内容に。
人生七十 力口希咄 じんせいしちじゅう りきいきとつ
吾這寶剱 祖仏共殺 わがこのほうけん そぶつともにころす
提ル我得具足の一太刀 ひっさぐるわがえぐそくのひとつたち
今此時そ天に抛 いまこのときぞてんになげうつ
この頃、利休の四百回忌の記念行事はいろいろありました。
井上靖さんの「本覚坊遺文」も千家からの依頼であったのかも知れません。
映画も「利休」「本覚坊遺文」とそれぞれ上映されました。
両作品とも傑作ですが、個人的には「利休」のほうがよかったと思います。三國連太郎さんの大柄な体軀が利休に似ているように思いましたので。
松風の家
茶道の危機、大きなものは幕末維新の時期と昭和の敗戦後であったことは想像できます。
裏千家の明治、大正、昭和、戦後までを扱った小説が宮尾登美子さんの「松風の家」です。
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