minerva2050 午後の愉しみ

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「海と三つの短編」立原正秋アーカイブス(2)

tatihara masaaki

立原正秋さんは両刀遣い、つまり純文学と大衆小説を意識的かつ挑戦的に使い分けた作家である。

氏が流行作家として世に受け入れられた大衆小説の話題には事欠かないが、

もういっぽうの純文学世界はどうであったろうか。

わたしはもっとも美しい純文学作品として「海と三つの短編」を推す。

三つの短編とは「聖堂の思い出」「黒い馬車」「七号室」で、なかでも海にまつわる話「七号室」は立原正秋さんの最高傑作ではないかと思っている。

「聖堂の思い出」は教会と神父そして母のにがい思い出の話、もうひとつの名作「美しい村」に通じている。

「黒い馬車」はモーツアルトの死を想起させるような死の使い黒馬車の話。

「七号室」は海辺のホテルに滞在したある夫婦の数日の風景をさりげなく描いている。

立原正秋さんの名作は短編小説に多い。

短編はさらりと書いた水彩画のように美しく仕上がっている。

それが紙数が増えてくると、氏のうちに抱えるマグマのような憤怒が突然噴出し暗い影を落とす。

ここであげた純文学の傑作は残念ながら両刀遣いをはじめる前の作品である。

さて彼の両刀遣いは成功したのかどうか、道半ばの死であったためであろうか、後期の純文学傑作は評論「日本の庭」にとどまる。