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ジャクリーヌ・デュ・プレ(奇跡のチェリスト)


ジャクリーヌ・デュ・プレの想い出 [DVD]ジャクリーヌ・デュ・プレの想い出 [DVD]
(2005/09/14)
デュ・プレ(ジャクリーヌ)

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ひさしぶりにジャクリーデュ・プレのシューベルト「ます」のビデオを観ている。

1969年ロンドン公演の記録である。

当時、デュ・プレ24歳、新婚の夫ダニエル・バレンボイムは27歳、共にしあわせの絶頂期の映像である。

ヴァイオリンはイツァーク・パールマン24歳。

ヴィオラを21歳のピンカス・ズーカーマン

最年長33歳のズービン・メータはコントラバスを受け持っている。

若き天才たちの溌剌たる演奏は観るものの胸を熱くさせるが、また悲しみも深くさせる。

カザルスの再来とまでいわれたジャクリーヌ・デュ・プレは16歳でデビュー。

それからわずか10年の演奏活動ののち多発性硬化症にかかり闘病生活に入り、

1987年42歳でこの世を去った、悲劇のチェリストである。

映画に『ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ』(Hilary and Jackie)(1998年に制作されたイギリス映画。天才チェリストジャクリーヌ・デュ・プレの伝記映画。)というのがあるが死者を鞭打つ不愉快な映画であった。彼女をよく知るイツァーク・パールマンピンカス・ズーカーマンらが映画会社に抗議している。

ちなみにピアノ五重奏曲「ます」はシューベルト22歳の作曲、青春の真っ盛りであった。

若者たちの純真無垢なこの演奏こそふさわしい。

シューマン 音楽の友その1「シューマンの指」から

シューマン『ピアノ協奏曲イ短調』Op54

バロック時代にチェンバロ協奏曲としてはじまり、モーツァルトの手で豊かに開拓された、ピアノ協奏曲というジャンルにおける最高傑作。

・・・各楽章は明確な意匠の下で動機的に関連づけられ、主題は堅固な組み立てにおいて処理されて、高い構築性と奔放な幻想性をふたつながらに、ほとんど奇跡のごとく実現している。」

シューマンの指」 奥泉 光から


シューマンの指 (講談社文庫)シューマンの指 (講談社文庫)
(2012/10/16)
奥泉 光

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学生時代、音楽評論家を職業としようとした友人がいた、S君としておこう。

当時から月刊誌「レコード芸術」は音楽愛好家にはなかなかの人気の雑誌であった

S君は、その「レコード芸術」の音楽評を書く仕事に就くのが夢であった。

批評文の下書き、大学ノート3冊分をわたしに読ませ、どうだろうか、と問うた。

ところがそういう希望者は何万人もいて、なおかつ新譜評担当の評論家ポストは十人前後で絶対に手放さない名誉ある仕事らしい。

事実、宇野功芳先生なる御仁などは当時から現在までそのポストにゆうに40年は鎮座していらっしゃる。

先ごろ逝去された吉田秀和氏はおそらく雑誌創刊以来の主筆、亡くなられても遺稿が載っている。

つまり、プロ野球のトップ選手になるよりも総理大臣になるよりもむつかしい音楽ファンあこがれの希少ポストらしい。

さすがに友人はあきらめて銀行員になった。

小説家奥泉 光さんも学生時代そんな夢を抱いていたのではないか、かなわぬ夢への趣旨返し。思いっきりシューマンピアノ曲の評論を書いてみたかったのだろう、ミステリー仕立てで。

それはともかくシューマンの過酷な運命は知る人ぞ知る、自殺もやむをえないと思わせる。

ここで奥泉光さんが絶賛する『ピアノ協奏曲イ短調』Op54を聴いてみよう。

         クリックでピアノ協奏曲イ短調         

スクラップアンドビルド

「今日は家におると?」

この絶妙な長崎弁のセリフで物語は動き出します。

老人

「早う死にたか」

毎日のようにぼやく祖父の願いをかなえてあげようと、

ともに暮らす孫の健斗は、ある計画を思いつく。

日々の筋トレ、転職活動。

肉体も生活も再構築中の青年の心の内は、衰えゆく生

の隣で次第に変化して……。

うまいですね、

まるで古今亭志ん生の落語「品川心中」「黄金餅」を聴かされたような、

ちょっと残酷でなおかつ可笑しい人間の業をさりげなく語っています。

多くを語らない、

だから読者に老醜も見せないし悪臭も嗅がさない。

祖父も母も、健斗さえその人物像は語っていない。

しかし読者は知らないようでよく知っています。

スクラップアンドビルド

周到に仕掛けられた言葉の罠か、

煙に巻く小説家のユーモアか、

スクラップアンドビルドなるほどと落語落ちで幕を閉じました。

しかし、

高齢者支援という立場からするとちょっと問題のある作品となります。

作者にとって「スクラップアンドビルド」での芥川賞受賞は将来に禍根を残すでしょう。

祖父は虚弱高齢者、いわゆるフレイル状態でしょう。

母親の冷淡な対応は祖父を要介護へ追いやるでしょうし、

健斗の対応は大腿骨頚部骨折ですぐ寝たきりになる可能性があります。

介護福祉の現場に対して作者の皮肉は実に後味の悪いものです。

老人問題を扱った小説では「楢山節考」や 「恍惚の人」の名作がありますが、

それぞれ死に向かう人間の尊厳を厳粛に問う配慮が行き届いています。

下ネタ狙いの漫才よろしく高齢者支援を笑い飛ばしては昨今の若者気質そのままで大人は救われません。

「家族八景」「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」七瀬三部作 筒井康隆


家族八景 (新潮文庫)家族八景 (新潮文庫)
(1975/03/03)
筒井 康隆

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伝説の復活から2年!大人のエンターテインメント作品

米倉涼子版『家政婦は見た!』再び!

SF小説の出来具合はフィクションとリアリティの混合比によって決まります。

だいたいフィクション4対リアリティ6以上の比率でなければ読者はついていけないのです。

妄想家筒井康隆さんの「家族八景」「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」いわゆる七瀬三部作はSF小説の傑作、

その混合比はフィクション3対リアリティ7。2対8まで比率を上げていれば直木賞だったでしょうが。

小説家筒井康隆の膨大なSF,エログロ、ナンセンス、パロディ小説群のなかで一番の傑作、次点は「文学部唯野教授」。

家族八景」にはじまる七瀬の超能力者設定は人の心を読み取る能力だけという押さえがいい。

家政婦として他人のうちを覗き込むという「家政婦は見た」の元祖版。

「七瀬ふたたび」はおそらく「家族八景」の思わぬヒットに気をよくした筒井さんが、

ヒロイン七瀬を007並みの活躍をさせるエンターテイメント小説に仕立てて二匹目のドジョウを狙って成功。

さらに「エディプスの恋人」では七瀬が神にまで昇華します。

三部作のクライマックスは60ページに及ぶエディプスの独白。

小説家筒井康隆にしてもっとも美しくもっとも泣ける珠玉の文章。

傑作です。


七瀬ふたたび (新潮文庫)七瀬ふたたび (新潮文庫)
(1978/12)
筒井 康隆

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エディプスの恋人 (新潮文庫)エディプスの恋人 (新潮文庫)
(1981/09/29)
筒井 康隆

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量子コンピュータ Φからはじまる まずは量子暗号化から

001.100.111.000.・・・・Φ

絵具

量子コンピュータの誕生までにはあと10年はかかるといわれています。

そんな中、量子暗号の実用化は意外と早いと予想されていました。

米ID Quantique社の量子鍵配送による量子暗号化技術の商用化の成功は快挙でしょう。

なぜなら、大切なことは、キュビットが実用化されたという事実です。

10年後であれ量子コンピュータの実用化は、私たち一般人には縁のないことですが、

量子論的考え方が一般化するということ、「量子的不確定」を普通の人たちがを当たり前だと思うこと、

そういうパラダイムシフトがガツンと起きることに意味があると思うのです。

「Φ(ファイ)からはじまる」とは大きな社会変革のはじまり、と予言します。

 米アクロニスは9月28日、量子暗号ソリューションの世界的トップ企業である米ID Quantiqueと、高度な暗号解読の手法や量子コンピュータの出現による脅威から、企業を保護するために協力すると発表した。

 今後、アクロニスはID Quantiqueと連携して、量子暗号をアクロニスのクラウドソリューションに導入する。これにより、アクロニスは量子暗号を採用する業界初のクラウドデータ保護ソリューションプロバイダとなる。量子暗号の採用によって、企業のファイアウォールの外部やモバイルデバイス上で増え続けていくデータを保護するとともに、ハッカーやサイバー犯罪から、アクロニスのクラウド上とクラウドに転送する顧客のデータを保護する。

 具体的には、アクロニスのクラウドデータ保護を利用する顧客が、将来的なサイバーセキュリティの脅威やぜい弱性から保護されるように、アクロニスのデータセンターとのデータ転送で最高レベルの暗号化技術を採用する。また、量子鍵配送により、アクロニスの全世界のデータセンターをつなぐバックボーンネットワークに対して、将来的にも耐性のあるセキュリティを提供する。さらに、量子乱数ジェネレータで、ユーザーに対して高品質、高エントロピー、高セキュアな鍵を生成し、アクロニスの保護下にあるデータへの不正アクセスを防止する。(出典デジタル朝日)

北方謙三「水滸伝」八巻

北方水滸伝8

前半のクライマックス、独竜岡の攻防。

宋江、,晁蓋も先陣を切る梁山泊あげての総攻撃に読者も手に汗握る。

さらに、

「一騎打ちを所望じゃ」

林沖は百騎を後方に退け、ひとりで突っ込んでくる扈三娘を待った。2本突き出した剣の先には闘気が溢れている。

美貌の女将軍一丈青扈三娘の登場に胸も高鳴る。

施耐庵白話小説では四十八回、一丈青を

「蝉鬂金釵(せんびんきんさ)双び圧し、鳳鞋宝鐙(ほうあいほうとう)斜めに踏む。

天然の美貌海堂の花、一丈青真っ先に出馬す」とあり、白話小説でも出色の場面である。

扈 三娘FC2>筑波嶺夜想曲

扈 三娘(こ さんじょう)は、中国の小説で四大奇書の一つである『水滸伝』の登場人物。

梁山泊第五十九位の好漢。地慧星の生まれ変わり。渾名は一丈青(いちじょうせい)。梁山泊の女性頭領の一人であり、「海棠の花」と謳われるほどの佳人。武芸も一流だが敵を捕らえる術にも長けており、女と侮って深追いした彭玘や郝思文を套索(からめ縄)で生け取っている。豪傑揃いの男たちに勝るとも劣らない活躍をしているが、令嬢時代に入山後も親(王英の時は宋太公が父名義)に結婚を強いられるなど、家や礼教に縛られていた当時の良家の女子の悲哀も現した人物でもある。

施耐庵(したいあん)は、中国の小説で四大奇書の一つである『水滸伝』の作者であるとされる人物。 生没年は1296年~1371年というが、疑わしい。 明のころの人と思われるが、水滸伝の作者として名が見えるのみであるため、何者であるのか、実在したのかさえもよくわからないが、一応『興化県続志』に施耐庵伝と明初の王道生『施耐庵墓志』が掲載されている。

(出典 ウィキペディア)

新宿鮫 大沢在昌

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なぜか故ロバート・B・パーカーの「スペンサーシリーズ」を彷彿とさせる。

スペンサーがボストン市内を徘徊するように鮫島は新宿の街を歩く。

いずれも地図を持ち歩けば正確に小説のその場所に行き着く。

スペンサーにはスーザンという恋人がいるが鮫島には晶という彼女。

シリーズの中でレギュラーの面々は登場しその役割をはたす。

なによりも大沢在昌さんにとっては「新宿鮫シリーズ」は当たり芸、

ロバート・B・パーカーでは「スペンサーシリーズ」ということになる。

書き手がその当たり芸を客に褒められて、だんだん上手くなっていく、パーカーは米文学界の大御所になってしまった。

大沢さんは道なかば、精進が続くが、成果は「新宿鮫シリーズ」の新作ということになろう。

新宿

「悲鳴は、鮫島が脱いだジーンズとポロシャツをたたんでいるときに聞こえた。鮫島は一瞬手を止めたが、ロッカーの扉を閉め、鍵をかけた。鍵はマジックテープのついたリストバンドで、手首に固定する仕組みだ。

ロッカー室が面した廊下のつきあたりには、サウナ風呂がある。その手前に、休憩室と仮眠室。

バスタオルを腰に巻き、ロッカー室を出たところで、再び悲鳴が聞こえた。」

1990年、自己増殖する都会「新宿」を舞台に、鮫島警部こと「新宿鮫」の登場のプロローグ。

なつかしいコマ劇場やACB会館が出てくる。

「歌舞伎町の広さは、わずかに0・三四平方キロ、だがそこには二千以上の飲食店が看板をかかげ、一晩に訪れる人間は、こうした週末には四十万人にのぼる。」

おそらく新宿爛熟のピークのころである、日本人なら知らぬものがいない街の舞台設定。

晶 鮫島の恋人、ロックバンド「フーズ・ハニイ」(以下W・H)のヴォーカル

桃井 新宿署防犯課課長・警部。「マンジュウ(死体)」という渾名を持つ

藪 新宿署鑑識係員

香田 警視庁公安・警視。「歌舞伎町警察官殺人事件特別捜査本部」に配属され、新宿署に来た鮫島の同期のキャリア

ママ 区役所通りのゲイバー「ママフォース」のママ

藤丸 警視庁刑事部長・警視監

25年経てもなお変わらぬ人たち、そのキャラクター設定には驚く。

ただあの憎々しい香田がシリーズを通じて変わっていくのはおもしろい。