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アスペルガー症候群の社会 ミレニアム4部作

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「ミレニアム」には確かに謎がある。そして秘密も。プラトンの洞窟の比喩と同じように、スティーグ・ラーソンのミステリーには読者に提示されていない事実が含まれている。その事実はさまざまなドラマを含み、別のドラマとも深いところでつながっている。

2012年6月中旬、フィンチャー「ドラゴンタトゥの女」を遅まきながら観たが、まったく失望した。スウェーデン版の圧倒的迫力に比べてまったく凡庸な作品である、と評価する。

なぜ、と問うて答えはすぐさま10も20も出てこようが、一言で言えばこれがハリウッド流の娯楽作品であるからだろう。

一方、スウェーデン版のすばらしさは優れた映像作家たちを輩出した国らしい国民的映画に仕上がっている。

ミレニアム4部作(第4部は未定稿)はスウェーデンの作家スティーグ・ラーソンによるまさに乾坤一擲のミステリー小説である。各国で翻訳され、おそらく現在一千万部は売れているのではないかと思う。ミステリー小説といえば娯楽のための通俗小説と解されるかもしれないが、その内容、表現方法からして現代社会の縮図を表現した社会小説とも取れる。映画化は本国、アメリカとそれぞれ大ヒットし、世界でミレニアム現象を巻き起こしている。日本で言えば1960年代の松本清張ほどのインパクトであろう。ただその影響力は世界レベルである。

残念なことは、著者のスティーグ・ラーソンが発表直後、心筋梗塞で死亡し、処女作であり絶筆となったことである。ミレニアム3部作を読めば燃焼しつくした仕事中毒ジャーナリストへの賛辞と、第4部で登場するであろう主人公リスベットの妹の行く末を書き上げて欲しかったという無念が交錯する。

とはいえ、ミレニアム3部作は21世紀スウェーデン文学の金字塔であることは間違いない。世界中で幾世代にも読み継がれトルストイの「戦争と平和」なみの古典文学となるであろう。理由はいくつかある。

息をもつかせぬ物語世界はともかく、伏せんとして

1、ある少女のシンデレラストーリーであるが、全編強烈なフェニミズム思想に貫かれている

2、ネット社会の実際、あやうさ、ハッカーの存在を精緻に表現している。

3、ミシェル・フーコーの哲学世界の具現化。

4、主人公のタトゥーやピアス、行動などを通じてパラダイムシフトを喚起している。

5、主人公をアスペルガーとして彼らの今日的意義を示す。

6、グローバル経済の功罪を指摘している。