minerva2050 review

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2018年のベストワン小説、熱い、一気に読みました 

 

第160回直木賞受賞 宝島

第160回直木賞受賞 宝島

 

 

1952年から 1972年まで沖縄の史実に即した冒険談あるいはミステリー。
オンちゃん
グスク
レイ
ヤマコ
20年の成長物語でもある。
嘉手納基地から逃走中姿を消したオンちゃんはいま、どこに?
オンちゃんが基地から持ち出した予定外の戦果とはなに?
嘉手納基地に秘密裡に持ち込まれた毒ガスの証拠?あるいは核持ち込みの証拠?
ワクワクしながら読み終えて、あらためて沖縄とは、と考えた。
パレスチナ問題とは、と。

脅威の近未来小説  百年法

 

百年法 (上) (角川文庫)

百年法 (上) (角川文庫)

 

 

不老化措置も生存制限法も現実にはあり得ないことであるが、もしあり得たら、と小説は始まる。
しかし超高齢化社会は現実であり、そんな時代どう生きるかの問いはいま生きる人間のハイデッガー的命題である。
SF世界でさ迷う人々を描いているが、あなたならどうすると真剣に問いかけてくる、そんなおもしろさ。
おわりに紫山のエピソードが出てくるがぞっとした。
絞首刑台のようであり、アウシュビッツ収容所のようでもある。
じつに丁寧に書かれているだけに身に迫ってくる。著者のたぐいまれな筆力ゆえであろう。

三体 中国発のSF小説

SF小説の傑作 

 

三体

三体

 

 

中国のSF小説は珍しいが、これが息をのむほど面白いです。
文革時代の下放から今日までの現代中国史を踏まえて、そんな中で翻弄される物理学者たちの生きざまが活写されています。
キーワードは「応答するな」、なるほど。
かつての名作山本義隆「磁力と重力の発見」を思い出しました。
気になる登場人物は警察官の史強(シー・チアン)

楊令伝(15)楊令と岳飛の最終対決の結末は?

 

楊令伝〈15〉天穹の章 (集英社文庫)

楊令伝〈15〉天穹の章 (集英社文庫)

 

 とうとう最終巻まで読み進めました。

多くの方がいっていますが作者の筆力はすごいですね。

南宋の時代、架空の梁山泊という夢物語があたかも実在したかもしれないと読者に思わ

せ、手に汗を握らせるおもしろさ。

「靖康の変」については多くを語らず、あくまで武人たちの国取り物語に徹している。

楊令と岳飛の最終対決の結末は?といえば、アッと驚くような想像を超える展開、

なるほどこうなるか。

 

ベツレヘムの密告者 パレスチナのいまがわかる

密告者


国連学校の歴史教師オマー・ユセフは、ジョージ・サバがイスラエルへの内通者と名指しされ、テロリスト射殺幇助の容疑で逮捕されたと知らされて耳を疑った。教え子のなかでもとびぬけて優秀で誠実なサバが内通者とは?動かない警察に業を煮やしたオマー・ユセフは、周囲の制止を振り切り、銃煙漂う街を徒手空拳で事件の真相を追い始めたが…。パレスチナの庶民の視点で描いた異色の本格ミステリ。CWA新人賞受賞作

まず、いくらかのパレスチナ情報を得て読みはじめないと戸惑ってしまうかもしれません。

例えばイスラエルの中であってもベツレヘムパレスチナ自治区のひとつであるため

裁判所、警察署、役所はパレスチナ人が管理していること、

パレスチナ人にはイスラエル建国前の固有の土地や集落があること、

パレスチナでは昔からイスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒が混住していること、

パレスチナ人は家系を大切にすること、などでしょうか。

そうした混沌とした世界での殺人事件を教師の主人公が推理するという展開ですから話はややこしい。

しかしどっぷりパレスチナ人になりきって読み進めていくと深い感動が待っているという名著であります。

楊令伝というより童貫伝

 

楊令伝〈9〉遥光の章 (集英社文庫)

楊令伝〈9〉遥光の章 (集英社文庫)

 

 童貫は宦官ではありながら禁軍の将軍に登りつめるという特異な経歴の持ち主。


作者は童貫への思い入れが強いのでしょう、前半の方臘の乱平定から、楊令との戦まで童貫を美しく描き切っています。

思い起こせば大水滸伝は「水滸伝」19巻、「楊令伝」15巻、岳飛伝」17巻、全51巻の大河小説、楊令伝〈9〉遥光の章はほぼ真ん中、前半のクライマックスです。意図的なのか、偶然なのか、いずれにしても恐るべき筆力に脱帽です。

史実とはまたひと味違った北方水滸伝、手に汗握る緊迫の第9巻でした。

「25年目の弦楽四重奏」&「持ち重りする薔薇の花」

もし人生がもう一つあったら何をしたいかと質問されて、

「第二の人生では心理学者になって、なぜクヮルテットの四人の仲がぎくしゃくするのか研究したい」

と答えたくらいなのに、演奏となるとじつにいいアンサンブルでじっくり聴かせる、

        

                  「持ち重りする薔薇の花」より

 

 

 

持ち重りする薔薇の花 持ち重りする薔薇の花
(2011/10)
丸谷 才一

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25年目の弦楽四重奏 25年目の弦楽四重奏
(2013/07/03)
アンジェロ・バダラメンティ、アンネ・ソフィー・フォン・オッター 他

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「25年目の弦楽四重奏」はヤーロン・ジルバーマン監督によるアメリカ映画、「持ち重りする薔薇の花」は故丸谷才一さんの遺作小説。ともにそれぞれの世界では趣味人にこそ愛されている佳作。

 

たまたま、2011年同じ時期に、弦楽四重奏団の音楽家たちを主人公に据えて、悩む演奏家を同じように描いている。

 

あくの抜けない苦い二品の料理をいっしょに味わうと、これが意外といける、という次第。

 

映画「25年目の弦楽四重奏」では

第1バイオリン マーク・イヴァニール

第2バイオリン フィリップ・シーモア・ホフマン

ヴィオラ キャサリン・キーナー

チェロ クリストファー・ウォーケン

 

いっぽう小説「持ち重りする薔薇の花」では

第1バイオリン 「プロフェッサー」厨川 

第2バイオリン 「殊勲賞」鳥海 

ヴィオラ 「テツチャン」西 

チェロ 「チェロさん」小山内  という設定

 

映画であれ小説であれぎくしゃくする不仲の理由は自らの技量への過信。

 

とくに第1バイオリンと第2バイオリンの仲たがいが多い。

 

映画では第2バイオリンのフィリップ・シーモア・ホフマンが第1バイオリンをやりたいと言い出すが、仲間から「君には第1バイオリンは無理だ」言われてだんだん切れてくる。その切れ具合はアカデミー男優賞のフィリップ・シーモア・ホフマンがうまい。

 

小説では第1バイオリン「プロフェッサー」の厨川君が天狗になって、

「君たちはおれをやめさせたいらしいが、それは筋違いだ。

おれのバイオリンで持っているクヮルテットぢやないか。

いやならそっちがやめてくれ。ぼくがほかのメンバーを探す」と言って出て行く。

 

それを言っちゃあおしまい、というところだが結局は元のサヤに帰る。

 

それぞれにあやうい四重奏団、「持ち重りする薔薇の花」とはさすがに丸谷才一さん、うまい。