minerva2050 review

ブック、映画、音楽のレビューです。お役に立てば・・・

「ダラス・バイヤーズクラブ」ジャレッド・レト

ジャレッド・レトのトランスジェンダー「レイヨン」役の演技が観たいと思った映画でしたが、 ほぼ完璧な名画に感動しました。 1.まずは実話に基づく脚本の出来がすばらしい。 物語の主題はエイズ治療薬薬害の告発のはずが、そんな思わせぶりな展開にしてい…

幸田露伴 利休の茶(その1)

「西行の和歌における、宗祇の連歌における、雪舟の絵における、利休が茶における、その貫道する物は一(いつ)なり」 「笈の小文」 芭蕉 はて? 利休の茶とは 幸田露伴の随筆に「些細なことだが大事なこと」というのがあります。 茶道を一言でいえば「生活…

「癒やす能」その3自然居士

話は、人買いにさらわれる少女を自然居士が琵琶湖畔まで追っていき、人買いの云う舞を舞え、簓をすれ、鞨鼓を踊れと無理難題に応えて、無事少女を解放するという、宗教家の有り様を問う問題作です。 説法を旨とする宗教家に辱めのため遊芸をさせて笑おうとい…

「日本の伝統音楽」の魅力

ロラン・バルトが日本を『表徴の国』と評したのは1970年であったが、西洋人が邦楽を野蛮な「雑音」と捉えなくなったのはごく最近のことである。 雅楽を観る機会はよほどのことがないと体験できない。 安芸の宮島では雅楽舞台で年に2,3度あるが、神官によ…

三条西実隆 古今伝授の行方

「やまと歌は人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれるける。世の中にある人、ことわざ繁きものなれば、心に思ふことを、見るもの、聞くものにつけて、言い出だせるなり」 あまりにも有名な紀貫之の仮名序の書き出しです。 とにかく「古今和歌集」「源氏…

「癒やす能」その4松風

「松風」は観阿弥の作といわれています。 「松風、村雨昔汐汲みなり」との記録もあり、「汐汲み」をもとに観阿弥・世阿弥が改作を重ねたのだと思います。 卑しい汐汲み女の姉妹、美しく清らかでひたむきな在原行平との恋が、松風の吹く須磨の浦で語られます…

京鹿子娘道成寺 (日本舞踊のゆくえ 5)

「日本舞踊のゆくえ 5」では、坂東玉三郎さんの「京鹿子娘道成寺」を通じて歌舞伎舞踊の楽しさを話します。長文になりますがご辛抱ください。 坂東玉三郎舞踊集1 京鹿子娘道成寺 [DVD](2003/01/25)Windows商品詳細を見る 坂東玉三郎 2013年正月おトソ気…

【虚空蔵求聞持法】 中沢新一「雪片曲線論」を読む(2)

さて、中沢新一さんの直覚、わが国における仏教思想の頂点が後にも先にも空海の真言密教であることは疑う余地のないことでありますが、 先だって山岳宗教者としての空海の謎に「虚空蔵菩薩求聞持法」の実践という逸話があります。 辞書によれば、こくうぞう…

中沢新一「雪片曲線論」を読む

雪片曲線論 (中公文庫)(1988/07)中沢 新一商品詳細を見る 「空海にはたくさんの顔がある。 密教の思想家としての空海がいたかと思うと、 能書家にして名文家のアーティストとしての空海がいる。 昔ながらの山岳宗教者として深山に踏み込んでいく空海の中には…

心敬 利休の茶(その2)

銀閣寺東求堂「同仁斎の間 「だいたい今日の日本を知るために日本の歴史を研究するには、古代の歴史を研究する必要はほとんどありませぬ。 応仁の乱以後の歴史を知っておったらそれでたくさんです。 それ以前のことは外国の歴史とおなじくらいにしか感ぜられ…

『癒す」能

国を癒やす「能」 迷路〈上〉 (ワイド版岩波文庫)(2006/11/16)野上 弥生子商品詳細を見る 「迷路」野上弥生子は戦争文学の傑作といわれますが、主人公ははたして菅野省三だったのでしょうか。 その長い物語の幕切れは 「とみはなにもいう暇がなかった。ふた…

「癒す能」その2 隅田川

古代アテネでは、ギリシャ悲劇の上演が医療施設で実施され治療に効果が上がっていたということは史実として記録にあります。 一方、能の発祥は足利義満の時代、娯楽として猿楽から様式化したことに始まります。 その時代や経緯は違うのですが、世阿弥の目指…

京鹿子娘道成寺 2 (日本舞踊のゆくえ 6)

WOWOW 3/16(土)午後4:00 で放映 京鹿子娘道成寺の見どころ もちろん玉三郎さんの流れるような舞踊の数々をうっとり観ればいいのですが、 もう一つの視点、この舞台の進行、物語の展開のなかで、どこで生娘が娼婦になり、娼婦が狂女になるのかは、役者は承…

泉美術館「広島-対馬」展

そっと日本地図を180度回転させてみると、対馬は中国、韓国からみれば日本の玄関口となる。 当たり前の話だが、それははるか遠い昔からそうだ。 例えば、紀元前219年、徐福が秦の始皇帝から依頼されて不老不死の薬を求めて舟を漕ぎ出したときもそうだった…

異文化コミュニケーションツール「ノンバーバル辞典」金山宣夫

世界20カ国ノンバーバル事典(1983/01/01)金山 宣夫商品詳細を見る ついつい、他国のひととの情報のやり取りは言葉であったり文字であっったりでないと出来ないと思いがちだけど、 何でもない「しぐさ」で通じたり通じなかったりするものです。 金山宣夫さん…

「マネーボール」メジャーリーグを10倍楽しむ方法

わたしには毎年春、秋に決まって買い物をする習慣がある。 春には「メジャーリーグ選手名鑑」秋には「NFLアメリカンフットボール選手名鑑」を買う。 そして4月から10月までメジャーリーグを楽しみ、11月から2月スーパーボウルまでNFLで遊ぶ。 そ…

ニーチェを知る事典

ニーチェを知る事典 (ちくま学芸文庫)(2013/04/10)不明商品詳細を見る ミシェル・フーコーは「僕はたんなるニーチェ主義者です。ニーチェ研究ノートだけで数トンあります。」と言った。 ニーチェははじめから最後まで古典文献学者であった。 フーコーはその…

(3)笑うショーペンハウアー

山中問答 李白 余に問う 何の意ありてか碧山に棲むと 笑って答えず心自ら閑なり 桃花流水ヨウ然として去る 別に天地の 人間(じんかん)に非ざる有り (訳 宇野直人) 腹を抱えて笑える哲学書というのものにはそうそう出会えない。 しかしゲラゲラ笑った、痛…

暗号技術入門  秘密の国のアリス

「拡大鏡でこれをご覧ください、ホームズさん」 「ええ、見てますよ」 「親指の指紋に2つとして同じものはない、という話はご存知ですか」 「そういった話は耳にしたことがありますね」 「ふむ。それでは、その指紋を、若きマファーレンの右手親指の指紋と…

googleの全貌

GOOGLEの全貌 そのサービス戦略と技術(2009/12/10)日経コンピュータ商品詳細を見る コンピュータの日進月歩いや秒進分歩世界にあって、2009年の出版でありますからいささかほこりが積もった歴史本でもありますが、 驚くべきは、ほぼ当時計画中のものも含…

凍氷 ジェイムズ・トンプソン

凍氷 (集英社文庫)(2014/02/20)ジェイムズ・トンプソン商品詳細を見る 極夜 カーモスの続編です。舞台はヘルシンキ、マイナス10度と暖かくなりました。 妻ケイトの希望通りヘルシンキへ移動となったカリ・ヴァーラ警部は猟奇的殺人事件の捜査、加えて第二…

もっと自由に、 ピナ・バウシュ生きるヒント

NHK BS12月25日深夜0時45分から放映されます 2012年から全国で巡回上映されているドキュメンタリー映画『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』が大きな反響を呼んでいます。 映像化したのは同じドイツの映画監督というより映像作家として有名なヴェ…

極夜(カーモス)ジェイムス・トンプソン

極夜 カーモス (集英社文庫)(2013/02/20)ジェイムズ・トンプソン商品詳細を見る フィンランド発のミステリー、それも極北ラップランド。 「ポーチのかかっている温度計はマイナス三十二度。暖かくなってきた。」 これは寒い。 「ストロベリーナイト」誉田さ…

「タンゴステップ」ヘニング・マンケル

タンゴステップ〈上〉 (創元推理文庫)(2008/05/23)ヘニング マンケル商品詳細を見る 文庫本上下巻の大部をわずか4日で読み切りました、というより読まされました。 スウェーデンのミステリー作家ヘニング・マンケルの傑作です。 プロローグ、舞台は1945…

北欧ミステリーを読む

靄の旋律 国家刑事警察 特別捜査班 (集英社文庫)(2012/09/20)アルネ・ダール商品詳細を見る 「靄の旋律」アルネ・ダール やはりスウェーデンのミステリー、原作を読んでいないがTVドラマでの仕上がりをみると傑作。 「スウェーデン実業界の大物が連続して…

心理学的にありえない

心理学的にありえない 上(2011/09/13)アダム・ファウアー商品詳細を見るヒット作「数学的にありえない」の著者による第二弾。 気をひかれる巧みな表題ですが心理学とは関係ありません。あえていえばSFファンタジー小説、好みが分かれます。 筒井康隆さんの七…

映画「夜叉」

夜叉【Blu-ray】(2012/08/22)高倉健、田中裕子 他商品詳細を見る 映画だけ観てくれ、と私生活を全く見せなかった映画俳優は「渥美清」と「高倉健」だけでしょう。 ふつう世間に顔をさらしてなんぼのお仕事でしょうから、相当きつい生き方やと思いますが大し…

「意志と表象としての世界」ショーペンハウアーを読む(1)

ショーペンハウアーさんがひどく変わったおもしろいオジサンであることはすでに述べましたが、 その代表作「意志と表象としての世界」もまたじつに愉快な哲学書ではあります。 まずは、その序文、読者にこの本を読むにあたっての心得といいますか次のような…

映画感想「ミッドナイトインパリ」

どうもご当地映画『それでも恋するバルセロナ』が当たって味をしめたウディ・アレン。 バルセロナからロンドンへそして本作「パリ」へ、次回作はローマだという。 思い出せば人気を決定付けた『アニー・ホール』や『マンハッタン』もシャレたニューヨークの…

「海と三つの短編」立原正秋アーカイブス(2)

立原正秋さんは両刀遣い、つまり純文学と大衆小説を意識的かつ挑戦的に使い分けた作家である。 氏が流行作家として世に受け入れられた大衆小説の話題には事欠かないが、 もういっぽうの純文学世界はどうであったろうか。 わたしはもっとも美しい純文学作品と…