minerva2050 review

ブック、映画、音楽のレビューです。お役に立てば・・・

「残りの雪」立原正秋アーカイブス(1)

残りの雪 (新潮文庫)(1980/07/29)立原 正秋商品詳細を見る 立原正秋さんの代表作といえば「春の鐘」か「残りの雪」ということになりましょうか。 いずれも発表当時話題を呼んだ日経新聞の連載小説ですが、今日の渡辺淳一さんの恋愛小説のさきがけ、今風に言…

「嵐が丘」エミリー・ブロンテ 奇跡の作家

嵐が丘 [DVD] FRT-007(2006/12/14)ローレンス・オリビエ、デヴィッド・ニーヴン 他商品詳細を見る ふつうイギリス文学史を俯瞰すれば三巨人としてチョウサー、シェークスピア、ディケンズをあげる人が多い。 しかし一般読者としてはイギリス文学といえばエミ…

井上八千代 日本舞踊のゆくえ(その2)

京都へ遊びに行けば、祇園のお茶屋へあがって京懐石を楽しむことはあっても、舞妓さんをよんで遊ぶマネは出来ない。そこで都おどりの時期に観劇に行くことになる。 その都おどり、舞妓さんの京舞を取り仕切っているのが「井上流」である。 「井上流」は初世…

イタリアオペラを愉しむ(その1)椿姫

ありがたいことに、最近はMET(メトロポリタンオペラライブビューイング)でオペラを臨場感そのままに愉しむことができるようになりました。 高価なLDやDVDを買わなくても、ハイビジョン画質、5.1チャンネル音質で茶の間で楽しめます。 ゴルフのテ…

Remember "Imagine"

もう忘れられた広告でしょうか? あの9.11の2週間後 2001年9月23日「ニューヨークタイムズ」 たった1行の全面広告。 Imagine all the people living life in peace そして、いま再び IMAGINE Imagine ther…

数学的にありえない(小説)アダム・ファウアー

数学的にありえない〈上〉 (文春文庫)(2009/08/04)アダム ファウアー商品詳細を見る 本の虫故児玉清さん絶賛「かつてない超のつく面白さに僕は悶絶した」といわれても、ねー。 かの筒井康隆さんの名作「時をかける少女」のいわばアメリカ版。 主人公はいたい…

ノーベル賞(その1 利根川進) 「免疫の意味論」から

「抗体という分子は、抗原が入ってくるとそれに対応した立体構造を持つタンパク質として合成される。 抗原という鍵に対して、抗体という鍵穴が作り出されるなどとは教科書ではあっさり述べられているが、 それは遺伝学的にもタンパク質化学からも驚天動地の…

リリー・クラウスのモーツァルト

モーツァルト聴きはやっぱりオペラがいいという人、河上徹太郎。やっぱり交響曲がいいという人、小林秀雄。 好みはいろいろ、ざっと平均に直すとピアノ協奏曲がいい、という人が多い、わたしもその一人。 ではだれの演奏がいいの?となるとこれも好み。 天真…

音楽の友その2「シューマンの指」から

「シューマンの過酷な運命は知る人ぞ知る、自殺もやむをえない」と書いたが、 ロベルト・シューマンは1856年7月29日午後4時、死亡した。 自殺といえるかどうか、病死というのが正しいかもしれない、拒食による餓死を自ら選択できるだろうか。 では死…

回顧 井上ひさし

近松門左衛門以来の天才戯作者、小説家井上ひさしさんを回顧しておこう。 戯曲家井上ひさし 観た舞台は「日本人のへそ」「道元の冒険」「泣き虫なまいき石川啄木」「組曲虐殺」くらい。笑い転げて、石原さとみさんがうまいな~という印象。みんなとにかく早…

アナトリー・ヴェデルニコフ 奇跡のピアニスト(その3)

ロシア・ピアニズム名盤選28 ヴェデルニコフ/20世紀ロシアの作品(2005/05/25)ベデルニコフ(アナトリー)商品詳細を見る 日本人がよく知るロシアのピアニストといえばリヒテルとギレリスであろう。 そのリヒテルが西側記者団に「国には自分よりすごいピアニス…

マリア・ユーディナ 奇跡のピアニスト(その2)

すこし昔、友人Hが新しいステレオを買ったので聴きにこないか、と誘った。 彼の部屋に入ると机の上に大きめのラジカセが置いてある。 「これを買ったんだ」とうれしそうに言う。 友人Hはクラッシックファン、とくにジョージ・セル指揮のクリーブランドオー…

漱石はブックリーダーで読む

最近漱石の「門」の欠落していた原稿の一部が見つかったらしい。 だからといってなんの発見もなかったのだ。 「門」はわたしにとって漱石作品のなかではいちばんのお気に入りなのだ。だからちょっと気になった。 漱石は岩波の全集で読むべし、とのご宣託もあ…

奇跡のピアニスト

ドストエフスキー、トルストイ、チェーホフ、文芸の世界で圧倒する芸術家はロシアに多いが、 そのほかの芸術分野、例えば映画、バレエなどでも優秀な芸術家が輩出している。 それは世界の七不思議のひとつと言っていい。 例えばバレエ、いわゆるクラッシック…

ヨシフ・ブロツキー ヴェネチア その1)

ヴェネツィア 水の迷宮の夢(1996/01/17)ヨシフ・ブロツキー商品詳細を見る ヴィスコンティの映画「ベニスに死す」に触発されて、ヴェネチアにかかわるさまざまなイメージを思い出している。 この町の美しさ、すぐにヨシフ・ブロツキイの短編小説「ウォーター…

笑うショーペンハウアー (その2)

随感録(1998/10)A. ショーペンハウアー商品詳細を見る デカンショ節というのがありますね。 ♪デカンショデカンショで半年暮らす あとの半年寝て暮らす 言うまでもなくデカルト、カント、ショーペンハウアーをもじった寮歌ですが、 哲学の系譜でならデカルト…

「アナと雪の女王」そのディズニーマジック

ディズニープロ思惑どおりの大ヒット、そのディズニーマジックとは? 1.あえて70%の出来 いろんな人のレヴューをみてみると、「お話がいまひとつ、キャラクターがいまいち。」 という意見が結構ありますが、大満足ではなく、ちょっと満足、を狙うのがデ…

Dの挑戦 ドストエフスキーの方法

「悪霊」 「ニコライ・スタヴローギンは事実、部屋の中にはいっていた。彼はごく静かに部屋にはいってくると、一瞬戸口で立ちどまり、もの静かな眼差しで一座をみわたした。」 やっと出てきたか、と言いたいけど、スタヴローギンの登場で物語は動き出す。 さ…

「推定無罪」から23年後の続編「無罪」スコット・トゥロー

スコット・トゥローのベストセラー小説というより、 1990年公開の映画「推定無罪」の続編といったほうがわかりやすいでしょう。 法廷ミステリー映画としてはおそらく名作「情婦」につぐ傑作映画でした。 推定無罪 [DVD](2000/04/21)ハリソン・フォード、…

「ハウスオブカード」

監督デビッド・フィンチャー、ケヴィン・スペイシー主演の政治ドラマ、 アメリカでの大ヒットがうなずける傑作TVドラマに仕上がっている。 日本での評判はまだ聞かないが、おそらくNHKが食指をのばすであろうから、来年くらいにはブレイクするだろう。 なる…

「死刑判決」スコット・トゥロー リーガルサスペンス

情婦 [DVD](2008/06/27)タイロン・パワー、マレーネ・デートリッヒ 他商品詳細を見る アメリカのミステリー映画で成功しているものにリーガルサスペンスと呼ばれる法廷ものがあります。 過去1950年代から「十二人の怒れる男」や「情婦」という名作になら…

いまどきの「西行」 森有正

梅雨時、なにげなく読むものとして森有正「バビロンの流れのほとりで」がある。 昭和32年の刊行のこの文のたち方が今日であっても不思議はないほどいつも新鮮なのに驚くが、描かれているのはたしかに今日のパリなのである、曇り空の。 森有正さんは昭和5…

プロムジカマンドリンアンサンブル「マンドリンに魅せられる」

U2、あの独特のピッキングを彷彿とさせるマンドリンのトレロモ「細川ガラシャ夫人」は1901年に発表された古典的名曲ですが、その現代性に驚きました。 最近、縁あってマンドリン音楽を聴く機会が2度ありました。 ひとつは山口大学マンドリンクラブ創…

目からウロコの「そうだったのか現代思想」

某友人から現代の哲学の入門書を求められてのレビュー。 やっかいなこの世界、なるほどと腑に落ちる入門書としては 小坂修平さんの「そうだったのか現代思想」をお勧めします。 そうだったのか現代思想 ニーチェからフーコーまで (講談社+α文庫)(2014/02/14…

「良心の美術館」泉美術館(4)写真家明田弘司「広島の記録」から

HPより 例えば当時、写真家といえば木村伊兵衛や土門拳がいた。 例えば当時、記録写真といえば宮本常一の何万枚という瀬戸内の記録写真があった。 しかし、 写真とは不思議なものである。 明田弘司さんの写真のどの一枚にも写っているあの「屈託のない希望」…

「良心の美術館」泉美術館

HPより これはオーナーの真心の奇跡といってもいい。 広島市郊外にあるこの美術館で出会える奇蹟とは。 まさかこんなところでお会いするとは、というのは失礼かもしれないが、 日本を代表する彫刻家故佐藤忠良の代表作の多くがここにある。 記憶に間違いがな…

「良心の美術館」泉美術館(2)

HPより 正面に梅原龍三郎の傑作が8点ズラリ、それは壮観である。 梅原の主要なモチーフ「北京」「裸婦」「薔薇」から厳選されている。 とくに「裸婦」がいい。 梅原龍三郎、安井曽太郎、坂本繁二郎と「日本人の琴線ふれる」洋画を堪能した。 西洋近代絵画…

平岩弓枝「御宿かわせみ」続 「長編小説作家」という時間の気配り

怪談牡丹灯篭 怪談乳房榎 (ちくま文庫)(1998/08)三遊亭 円朝商品詳細を見る三遊亭円朝の「牡丹灯篭」 わが国の近代小説の幕開けは明治、文明開化の掛け声とともに始まる、まさに奇跡の時代であった。 波紋を広げた投げた石の一つは二葉亭四迷から始まる翻訳…

ヴィスコンティの美学(2)ヴェニスに死す

ブロマイド写真★映画『ベニスに死す』タジオ(ビョルン・アンドレセン)/カラー/頬づえ()不明商品詳細を見る 百年(ももとせ)に一年(ひととせ)足らぬつくも髪 われを恋ふらし面影に見ゆ (伊勢物語 六十三段) ヴィスコンティの「イノセント」に次ぐ傑作。 …

プルースト 「長編小説作家」という時間の気配り

スワンの恋 [DVD](2006/05/26)ジェレミー・アイアンズ、オルネラ・ムーティ 他商品詳細を見る 長編小説が好きである。 どのくらい長いものから長編小説になるかは読む人の個人差で決まるのであろうが、 例えばわが国は「源氏物語」から「大菩薩峠」まで長編…