minerva2050 review

ブック、映画、音楽のレビューです。お役に立てば・・・

書評「冷血」上・下 高村薫

合田が帰ってきた。 高村節のリズム感が戻ってくるのは事件現場に合田が到着してからである。 現場検証、捜査会議の詳細を極めるリアリティ表現はさすがの高村さん。 ただ事件はありふれた強盗殺人事件、犯人逮捕もあっけない。 あえてシンプルな舞台設定に…

映画「黄金を抱いて跳べ」井筒監督入魂の一作

高村薫の原作、こんなハードボイルド小説が女性作家に書けるか、高村薫は男だろう?と話題を呼んだデビュー作でした。 その映画化、井筒監督入魂の一作です。 キャスティングがいい、西田敏行さんのジイちゃん役をのぞいて。 モモ役のチャンミンが役得。 幸…

高村薫を読む、「レディジョーカー」

レディ・ジョーカー〈上〉(1997/12/01)高村 薫商品詳細を見る 高村薫さんの傑作ミステリー「レディジョーカー」がテレビドラマ化され第一回をみました、秀作です。 同原作は2004年に日活で渡哲也さんらにより一度映画化されています。 なかなかの力作で…

映画「奇跡の2000マイル(原題 TRACKS)」セミドキュメンタリーの秀作

アリススプリングス、オーストラリアの地図を開くとど真ん中にある小さな町。そこから砂漠を横断してインド洋まで歩いて女一人旅をしようという無謀な計画を実現した24歳のロビン・デヴィッドソンの実録をセミドキュメンタリーで撮った秀作。 1.なにより主…

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕やはり読みづらい翻訳

ル・カレの著作を流麗に翻訳されてきた村上博基さんの訳。 どうしちゃったんだろう、ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕はやはり読みづらい。 映画「裏切りのサーカス」の公開に合わせて大急ぎのやっつけ仕事だったんでしょうか。 多くの人…

映画感想「裏切りのサーカス」

ル・カレのスパイ小説、『ナイト・マネジャー』がBBCでドラマ化されるらしい。 その前に、ル・カレの傑作映画を観るのも悪くない。 ひさしぶり、大人のための傑作ミステリー映画である。 原作はジョン・ルカレの「Tinker Tailor Soldier Spy」 読んだのはも…

建築家リカルド・ボフィルについて(建築家シリーズ1)

1990年、わたしはフランスパリ、スペインバルセロナ、フランスモンペリエを旅行しました。 ただただ建築家リカルド・ボフィル(Ricardo Bofill)の設計の建造物を訪ね歩くという贅沢な旅でありました。 リカルド・ボフィル、現在ではあまり知られない建…

「水滸伝」19巻 完結編 なるほどだから面白い

「水滸伝」19巻 完結編 なるほどだから面白い北方水滸伝。 講談本では梁山泊に最後まで生き残るはずの楊志が北方版では第五巻で早々に死んでしまった、どうして? その後延々と続く楊令の成長物語はなぜ? 17巻から突然登場する女真族、どうして? 多く…

『バードマン』アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督

ブロードウェーの不思議のひとつに、 公演初日のニューヨークタイムスの批評次第で、ロングランあるいは一週間で打ち切りが決まる、という理不尽なルールがある。 何か月、何億の経費をかけて準備をしていようとダメはダメ。 この理不尽なルールにもの申した…

『Mr. Robot』(ミスター・ロボット)Amazonビデオの傑作海外ドラマ

うーん、やっぱりドラマ化されたか、という第一印象ですが、いかにもアマゾン独占配信らしい知的ドラマです。 昼はコンピュータセキュリティーの専門家、夜は天才ハッカーとして悪徳企業をやっつけてしまうという現代の必殺仕事人のドラマ、おもしろい、必見…

Vフォー・ヴェンデッタ(映画)マトリックスより笑える

ハッキンググループのアノニマスの仮面として有名になったガイフォークスマスク。 そもそも事の起こりはこの映画「Vフォー・ヴェンデッタ」から。 何かと世間を騒がすウォシャウスキー姉弟のおバカないたずらなのか、まっとうな映画なのか、 ただ小道具のは…

「十二国記」新作は直木賞を受賞する

いわば東洋の「指輪物語」、きっと永く読み継がれる名作なので、 新作に直木賞くらいあげておかないと、将来、直木賞選考委員の人たちはきっと恥ずかしい目に合うでしょう。 いまは奇書、あすは名著 食わず嫌いという言葉があります。読書ではさしずめ嫌いな…

ピリオダイゼーションという戦略(チェルシー監督モウリーニョ)2015年プレミアリーグ優勝

2015年プレミアリーグ優勝はチェルシー、さっそく2016年も連覇すると宣言。 監督はジョゼ・モウリーニョ。 「私は特別な存在(Special One)だ」というセリフは有名だが、たしかにプレミアリーグ、セリエA、リーガ・エスパニョーラとヨーロッパ三大大…

映画「インターステラ」傑作SF

はじめの15分はほとんどオカルト映画かと見まがう。 娘の部屋の本棚から勝手に本が落ちる、砂が積もる。 農場では野菜が枯れる、砂嵐がやって来る。 どうなるのこの映画は、オカルトはごめんだと思いつつ。 親子が不思議な基地を訪ねたところから本格的なS…

ヴァレリー・アファナシェフ -奇跡のピアニスト(その4)

春の日、早朝5時に目覚めた。 まわりの人に迷惑にならないようヘッドフォンで、アファナシェフのシューベルト「ピアノソナタ第21番」を聴く。 ゆっくり、しらじらと夜が明けていく時間の流れと、アファナシェフのゆるゆるのテンポがうまくシンクロするの…

ジャクリーヌ・デュ・プレ(奇跡のチェリスト)

ジャクリーヌ・デュ・プレの想い出 [DVD](2005/09/14)デュ・プレ(ジャクリーヌ)商品詳細を見る ひさしぶりにジャクリーデュ・プレのシューベルト「ます」のビデオを観ている。 1969年ロンドン公演の記録である。 当時、デュ・プレ24歳、新婚の夫ダニエ…

シューマン 音楽の友その1「シューマンの指」から

「シューマン『ピアノ協奏曲イ短調』Op54 バロック時代にチェンバロ協奏曲としてはじまり、モーツァルトの手で豊かに開拓された、ピアノ協奏曲というジャンルにおける最高傑作。 ・・・各楽章は明確な意匠の下で動機的に関連づけられ、主題は堅固な組み立…

スクラップアンドビルド

「今日は家におると?」 この絶妙な長崎弁のセリフで物語は動き出します。 「早う死にたか」 毎日のようにぼやく祖父の願いをかなえてあげようと、 ともに暮らす孫の健斗は、ある計画を思いつく。 日々の筋トレ、転職活動。 肉体も生活も再構築中の青年の心…

「家族八景」「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」七瀬三部作 筒井康隆

家族八景 (新潮文庫)(1975/03/03)筒井 康隆商品詳細を見る 伝説の復活から2年!大人のエンターテインメント作品 米倉涼子版『家政婦は見た!』再び! SF小説の出来具合はフィクションとリアリティの混合比によって決まります。 だいたいフィクション4対リ…

量子コンピュータ Φからはじまる まずは量子暗号化から

001.100.111.000.・・・・Φ 量子コンピュータの誕生までにはあと10年はかかるといわれています。 そんな中、量子暗号の実用化は意外と早いと予想されていました。 米ID Quantique社の量子鍵配送による量子暗号化技術の商用化の成功は快挙…

北方謙三「水滸伝」八巻

前半のクライマックス、独竜岡の攻防。 宋江、,晁蓋も先陣を切る梁山泊あげての総攻撃に読者も手に汗握る。 さらに、 「一騎打ちを所望じゃ」 林沖は百騎を後方に退け、ひとりで突っ込んでくる扈三娘を待った。2本突き出した剣の先には闘気が溢れている。 …

新宿鮫 大沢在昌

なぜか故ロバート・B・パーカーの「スペンサーシリーズ」を彷彿とさせる。 スペンサーがボストン市内を徘徊するように鮫島は新宿の街を歩く。 いずれも地図を持ち歩けば正確に小説のその場所に行き着く。 スペンサーにはスーザンという恋人がいるが鮫島には…

北方謙三「水滸伝」五巻

意外な展開である。 楊志が早々に死ぬ。 まだ宋江も梁山泊に入っていない。 「死は誰にもやってくる。晁蓋は、そう思った。 早いか遅いかの違いだけで、人はみな土に還る。 だから、嘆くことはない。 死者のために、生き残った者ができることは、なにもない…

「サマー・アポカリプス」笠井潔 異端カタリ派の呪いか?

「昨日ジゼールは、黄昏時にモンセギュールの城跡を散歩していた。 観光客の足も途絶えた人気のない石の廃墟に一人いると、 まるで痺れるような畏怖の感覚の海に沈んでいきそうになる。」 南フランスアリエージュ県モンセギュール村、スペイン国境に近い盆地…

厳島千畳閣と安国寺恵瓊

何度も宮島を訪れその時々には千畳閣にも上っているが、たしかにいわれるように未完の大経堂であり、不思議な建物である。 入母屋造りの大伽藍で857畳の畳を敷くことができ千畳敷と呼ばれるほどの経堂なのに、 なぜか壁面はなく、本来の入り口もなく、あるべ…

「バイバイ、エンジェル」(笠井潔)舞台はパリ、矢吹カケルくんが登場

舞台はパリ。 一度でもその街角をそぞろ歩いた人には懐かしいあのパリが舞台のミステリー小説です。 森有正さんが、あるいは辻邦生さんが語るパリもありますが、 笠井潔さんは奥に隠れて見えにくいフランス上流社会のパリをあらわにします。 そこで、 あの鼻…

「哲学者の密室」笠井潔 痛烈なハイデガー批判

笠井潔さんの、10年という時間、2000ページ、まさに渾身の傑作本格ミステリー小説であるが、 残念ながら商業的には成功していない。(もちろん作家にはそんな目論見はない) なぜか。 まず第一に、 ドイツ哲学の巨人ハイデッガーが小説ではマルティン…

「ジェノサイド」高野和明

サイエンスフィクションでこの種の感動を覚えたのは、ずいぶん昔のことのように思い出されます。 およそ50年前、マイケル・クライトンの出世作「アンドロメダ病原体」を読んだあの時の興奮がよみがえりました。 有り得そうで有り得ない、有り得ないようで…

映画「アメリカンスナイパー」

奇禍といっていいでしょう。 映画製作中に起きた映画の実在のモデル「クリス・カイル」殺人事件の衝撃が映画に重くのしかかっています。 遺族への配慮と了解を得るため脚本は大幅に変更されたでしょうし、クリント・イーストウッド監督でなければ完成公開は…

『漢詩』宇野直人先生のお仕事

NHKラジオ放送にカルチャーラジオ「漢詩を読む」という番組があります。 この番組のファンで長い間聴いていますが、 とくに2008年4月から2011年3月までの宇野直人先生の「漢詩の来た道」は圧巻でした。 紀元前1050年西周王朝の「詩経」の第…